ヘスの過去
ヘスは、もとはワークセーE帝国イヤーンシュタイン火葬場の職員であった。
当時、ワークセーE帝国では新型チクロンBウイルスが猛威を振るい、日に何千人もの死者を出していた。
毎日、貨物に載せられた死体がイヤーンシュタイン火葬場に運ばれ、火葬場の煙突から煙が絶える日はなかった。困ったのは火葬担当者である。一日に火葬場で処理できる死体の数には限りがある。ところが、運ばれてくる死体の数のほうが圧倒的に多いのである。担当者達は夜を徹して、その解決策を検討した。その結果、「宇宙エンジン・ゴリ」という新型エンジンを使えば、物質を燃やすスピードを早めることがわかった。早急に「宇宙エンジン・ゴリ」プロジェクトチームが結成され、ヘスはプロジェクトのリーダーに指名された。
ところが、彼の強引なやり方と意地汚い強情な性格がチームメンバーの反感を買い、プロジェクトの達成間近になって「宇宙エンジン・ゴリ」プロジェクトチームから追放され、ドクターモローの島に島流しにされてしまった。
そこは一億五千万年前にタイムスリップしたような島で、プテラノドンや、ティラノザウルス、ゴジラザウルスが生息する恐ろしい島であった。
彼は何日も密林をさまよい、水もなく食料もなく もう自分はここで死んでしまうのだとあきらめかけたとき、目の前にどんどろ大師が現れ、彼にこう言った。
「これ、旅の者よ。そなたの死に場所はここではない。この先に茶店がある。そこに行くがよい」
それだけ言うと、どんどろ大師はどろどろと消えてしまった。
これは夢だ、あまりに腹が減りすぎて、ありもしない幻覚が見えたのだ、と思った。
※昔、「宇宙猿人ゴリ」というアニメがありました。惑星Eから追放された科学者のお話。
しかし、本当に茶店はあった。
ヘスは倒れこむように茶店に入り、懐の中から500円玉をとり出し、「これで、何か食べさせてくれ!」と叫んだ。
茶店のオババは1本100円の団子をひとつだけ持ってきた。しかし、おつりをくれない。
「おつりぃ〜〜!!」
どんな状況におかれようと、ヘスは金のことだけは忘れない。オババは迷惑そうな顔で 400円をヘスに差し出し、「ほれ、おつぅるぃじゃ」と、歯の抜けた口で言った。
そのとき、茶店に来ていた中年の女がヘスに駆け寄り、「もしや、もしや・・・そなたの名はおつる!」
おつると呼ばれ、ヘスは突然、自分が幼い巡礼になったような気がした。
「そなたの父上の名はなんと申す? 母上の名はなんと申す?」
着物姿の女はヘスに尋ねた。
ヘスは、袖口をちょいとつかみ、目元を隠すように よよ〜と泣き崩れたような格好で、「あ〜〜〜い〜〜〜、ととさま、しんだ。かかさま、にげた。あ〜〜〜い〜〜〜。かかさまにあいたぁい〜〜〜。 あ〜〜い〜〜〜」
「おお、なんと不憫な。そなたの母は・・そなたの母は・・・・・」
おんなは何か言いかけて、そのまま よよよ〜〜と泣き崩れた。
「あ〜〜い〜〜〜〜」
よよよ
「あ〜〜〜い〜〜〜」
よよよ
おんなは袖で顔を隠して よよよよよよよ〜〜〜といつまでも泣き崩れている。
やがて、よよよよよよよ〜〜の数が、よよよよ〜〜になり、よよよ〜〜になり、最後によよ〜になったとき、ゆっくり顔を上げ、熱いまなざしでヘスを見つめながら、
「これ、娘よ、道中 腹が減るじゃろう、鳴門の渦巻きせんべいを持っていきゃれ。
そんな姿では夜風が冷たいじゃろう。これをきていきゃれ」 といって、ヘスに山伏のコートをくれた。
だんごで体力を回復したヘスは山伏のコートを着て 再び密林を進んだ。
しばらく行くと「安宅の関」とかかれた看板があった。
突然 屈強な侍に取り押さえられ、関所の中に無理やり引きずりこまれた。
関所の真ん中にはリングが設けられ、リングの上には真っ白な髪に黄色いパンツをはいた筋肉ムキムキの男がいる。そのムキムキ男は、一心に鉈をといでいた。研ぐたびに「トガーシ、トガーシ」という、刃と研ぎ石のすれる音がする。
「判官(ホーガン)さま、怪しいやつをひっとらえました。こやつ、山伏の格好をしております」
判官と呼ばれた男は、ヘスのほうを振り返った。
「何者だ。山伏の格好をしたものはここから通すわけにはいかぬ」
「私は怪しいものではござらぬ。先を急ぐゆえ、ここを通していただきたい」
「それはならぬ! 山伏は通すなというお達しじゃ。そちが山伏というのなら勧進帳をよんでみよ!」
判官は恐ろしい目でヘスをにらんだ。
ヘスは山伏コートのポケットから勧進帳を取り出した。 なぜ、こんなものが入っているのか、さっぱりわからなかったが、とにかく入っていた。しかし、何も書かれていない。
ヘスは機転を利かせて、何も書かれていない勧進帳を見ながら読み上げた。
「はじめちょろちょろ中、パッパ、赤子泣いても ふたとるな。
アメンボ赤いな、飲みすぎだ。浮き藻が小エビをたべちゃった」
ヘスが読み終わると、判官は険しい表情でリングから降りてきて、詮議問答をはじめた。
「生麦生米!! そもさん!!!」
判官が詰め寄る。
「腹こわす! せっぱ!」
ヘスが答える。
「赤信号、みんなでわたれば。 そもさん!」
「せっぱ! 集団自殺!」
「う〜〜〜〜ん! おぬし、できるな!」
判官がうなった。
歌舞伎の筋書きならば、この次は、部下からビシバシたたかれるのであるが、それは痛いのでやめた。
厳しい詮議を無事 クリアし、ヘスは安宅の関を抜けることに成功した。
しばらく行くと、海に出た。岸壁の上から下を見下ろすと、そのあまりの高さにヘスは足がすくんだ。
そこから数メートル先に しましまの囚人服を着て、胸にピンクの豚を抱えた男が立っている。
彼こそはあの有名な、知る人ぞ知る、知らない人はまったく知らない「パピヨン」と呼ばれた男であった。
彼は数年前にここに島流しになり、マタンゴを栽培しながら生活し、いつの日かこの島から脱出することを計画していた。
ヘスとパピヨンは意気投合し、しばらく パピヨンの小屋で寝泊りすることになった。
パピヨンの部屋には 妙に色気のあるエバという名前の桃色豚がいた。これは自分のワイフだとパピヨンは言った。彼のワイフはドクターモローに連れ去られ、獣人に改造されてしまったのだ。パピヨンは妻の豚とともに、この絶海の孤島から無事脱出できる日を待っていた。
そしてついにその日が来た。
潮の流れは脱出にパーフェクト。
パピヨンは 岸壁から海に向かって筏を投げた。
それに続いて、ヘスと豚妻を抱えたパピヨンは シュワッチ!の掛け声とともに、はるか下方の海面に飛び込み、必死で泳いで筏にたどり着き、モローの島を後にした。
しかし、 海に出て まもなく、メガロドンに襲われ、パピヨンはあっけなく食われてしまった。
パピヨンテーマ曲
のこされた豚とヘス。
容赦なく照りつける太陽。
食べ物も水もない。
極端なのどの渇きと空腹。
この豚を食べてしまえば・・・
何度もヘスはそう思った。
そのたびにヘスは頭に浮かぶよからぬ思いを打ち消した。
しかし、悩ましいボディーと妙にそそられる豚のまなざしに、ついについに、ヘスは越えてはいけない一線を越えてしまった。
エバをたべたのだ。煮て焼いて食ったのではない。
禁断の不純異性交遊
ヘスとエバは筏の上で何時間もしっぽり濡れた。
時々、波がかかって、びっしょり濡れた。
何度も訪れるエクスタシー。
エバは誰にも渡さない。
ヘスは心に固く誓った。
朝から晩まで、一人と一匹は悩ましき狂乱の宴に時を忘れ、どっぷり浸かってほとんど溺れかけていた時、タイタニックに救助された。。
ヘスはドクターモローの島から無事生還した。しかし、ワークセーE帝国に戻れば、再びモローの島に送られる。
ワークセーEを追放されたあの悔しさは忘れはしない。世界を旅して目についたドドイツ帝国を支配するぅ〜〜 と心に誓い、ドドイツ帝国アウチアッチッチ町ヘの8番地に新居を構え、エバとのなまめかしき新婚生活を始めた。
エバのためなら何でもした。
ステーキが食べたいといえば、戦闘機をチャーターし、三重の松阪まで極上の牛肉をしいれにいった。旅行に行きたいといえば 「どこでも顔パスの無料チケット90%割引」を宣伝文句にしている旅行代理店からチケットを購入した。
頭が桃色に染まっているヘスには 旅行代理店の宣伝文句の矛盾にも気ずかず、お得な買い物をしたと思っていた。
ドドイツ帝国に着てからもヘスは「宇宙エンジン・ゴリ」の研究を続け、「ゴミ問題最終解決」と題した論文を発表した。
それが総統閣下の目に留まったのである。
続く