SS親衛隊
ヘスは収容所に着任すると、SS(Sangyohaikibustu Shori)突撃隊を結成し、廃棄物捕獲の仕事に当たらせた。
ヘスは一同を焼却場内に作られた講堂に集め、声も高らかに演説を始めた。
「同志諸君! 今ここに、我々の新しい使命を宣言しよう。
長い間、我々はゴミに苦しめられてきた。祖国の平和と発展のため私は今こそ 歴史の前に宣言する。
我が祖国から不要なゴミを消滅させるのだ。我らが祖国に栄光あれ!」
ヘスの演説に続いてSS親衛隊の合唱が始まった。
「山はゴミだめ、毒気をおびぃてぇ〜 らんらんらん〜〜
逃げる不法投棄者の風きるはやさぁ〜 らんらん〜〜
追うはSS,舞い立つ突撃隊
お〜お〜お所長も駆けるよかけぇるぅ〜〜
風をつんざく 左へ右へ
飛ばせばぶつかって 流れる廃棄物
海はヘドロよ、大地はPCB
おお あのゴミ われ等を招く」
(スキーの歌)
処理工場の地下2階、階段を下りて右に曲がってチョット行ってまた左に曲がったところにあるSS課では毎晩遅くまで廃棄物捕獲に関する営業会議がもたれた。
壁には月ごとに捕獲成績ナンバーワンのSS営業マンの名前が張り出され、周囲をピンク色のティッシュで作った花で飾ってある。
「同志諸君、君たちの努力の甲斐あって、オープン以来、我が焼却場の成績は上昇している。総統閣下も大変にお喜びである。残念ながら、先月は一名、成績が芳しくなく、チクロンBルームに転属してもらった者がいる。今後、このようなことのないよう、諸君の努力に期待する。あらゆる手段を使って廃棄物を捕らえこの焼却炉へ連れてくるのだ。不法投棄をする者はその場で始末したまえ。以上、本日の会議はここまでとする。何か質問のある者はいないか?」と、ヘスが言っても、誰1人 手を挙げる者はいない。
かつて新入りのSS隊員がヘスに意見を述べた事がある。新人のSS隊員はすぐに、裏の倉庫に連れて行かれ、数分後、倉庫から雄叫びが聞こえた。
それ以降、彼の姿を見た者はいなかった。
<忠誠こそ我が名誉 (Meiji Ekurea Hitotsu TaBetai)
(※ 正しいドイツ語はMeine Ehre heit Treue)
SSはタダ命令に従うのみ>
SSの手引き第一ページに書かれてある言葉である。
各地に散らばったSS隊員は、ゴミ捕獲のためには手段を選ばなかった。
風に舞って逃げていく古新聞は、容赦なく撃ち殺した。焼却炉に連れて行かれるのを嫌がって動こうとしない粗大ゴミは数人でよってたかってレイプし、事が終わったあとには斧でバラバラにした。
血気盛んな若い隊員は、自ら進んで特攻隊に志願し、手榴弾を抱えて廃品回収車に飛び込み若い命を散らしていった。 彼らは後世、「紙風特攻隊」として歴史の一ページにその名を刻んだ。
ドドイツ帝国の名物アンネ印フランクフルトソーセージ工場のオーナーは、隠し部屋を作って賞味期限切れのソーセージをかくまっていたが、ついにSSに発見され、ソーセージ達は数珠繋ぎになって、引きずられていった。 途中で列からちぎれてしまった年老いたソーセージはその場でSS隊員に踏みつけにされ、身体の中味が飛び出したままで置き去りにされる。 瀕死にあえぐソーセージに待っているのはもっと残酷な死である。
やがて匂いをかぎつけた全身毛で覆われたプレデターがどこからともなく現れ、尖った三角形の耳をぴくぴく動かしながら、クンクンと匂いをかいだ後、一気に噛みつき、ずたずたに食いちぎる。
空からこの残虐行為を見ていたコンドルは、おこぼれに預かろうと舞い降りてきて、路上に残されたわずかばかりの肉片をくわえて、いずこともなくコンドルは飛び去っていくのであった。
SS親衛隊の靴音が石畳のストリートに響き渡ると、住民はゴミを抱えて家に飛び込みさっと灯りを消して、彼らが通り過ぎるまでじっと息を潜めていた。
何処かの家から、「お前は人間のクズだ」という怒鳴り声が聞こえてきたら、SSがその家にのりこみ、クズ呼ばわりされた人間を連れて行く。「ゴミを捕らえよ」という命令に忠実に従っただけである。
このような残虐行為が毎日のように続いた。
あれではゴミがあまりに気の毒だ と誰が言ったわけでもないが、いつしか、人々は自分からゴミをアウチアッチッチ焼却場まで運ぶようになった。車を持っていない家は焼却炉に電話をすればSSが回収に来てくれる。ヘスの機嫌を損ねないよう、ほんの手みやげと称して、イチゴ大福の折り詰めの底に札束を敷き詰めて手渡す事業所もあった。
「ゴミは金になる」
所長室でいちご大福を食べながら、その箱の底に隙間なく並べられた札束を見て、にんまり笑うのが ヘスの趣味であった。
SSに捕まった廃棄物たちは貨物列車にのせられてアウチアッチッチまで運ばれてくる。
霧にだかれてしずかに眠っていた山であったが、焼却炉の建設で木は切りたおされ、工場からはき出される煤煙で山の木々は疫病にかかり、木の枝はどれも渇いて折れてしまい、二度と葉をつけることはなかった。
枯れ果てた山を見ても、ヘスはノミの糞ほどの後悔も感じてはいなかった。
「ゴミの山こそ我が勝利の証」
ヘスの目にはうずたかく積み上げられた廃棄物の山が自分に与えられた名誉勲章に見えるのであった。
毎日、ゴミ焼却予約の電話が殺到し、廃棄物がぞくぞくと運び込まれた。廃棄物は種類事に分類され、重金属は粉砕してから焼却される。
朝から晩まで 金属を砕く音が轟き渡り、工場のガラス窓が音波でわれることもあった。
続く