雑記帳

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エンジェルダスト(18)

 水曜日、朝。

 今日も仕事に行けない。仲間にも会えない。謹慎処分――裁判もなしに私とケリーに下された判決。最悪の場合、もう二度と警官の仕事に戻れないかもしれない。署長は心配するなと言ってくれたが、たぶん私を励ますつもりでそう言っただけだろう。スコット署長の権限すら及ばない市警内部にできたゲシュタポ。彼らに歯向かったら、署長といえども裏から手を回されて辞職に追い込まれる。

 腹が立つ! 無性に腹が立つ!
 こんなときこそ、太極拳でもして気分を落ち着けたほうがいい。

 午前8時、ワシントンスクエアでは若い女性から60代の男性まで、さまざまな年代の中国人が20名ほど、マスターチャンの動きを真似て太極拳の稽古をしていた。
「はい、リュートをひきますよ。後ろに下がって、猿を追い払いましょう。はい、クラウドハンド、一歩下がって虎になりますよ」
 マスターチャンの掛け声にあわせ、「猿拳」と「虎拳」の動きを稽古している。
 私は、朝の冷たい空気を吸い込んでゆっくり吐きだした。それを数回繰り返してから稽古に加わった。全員が同じ動きをするロボットになったように、同じ技を何度も繰り返す。いつもなら、10分も稽古すれば気持ちがスーッと楽になってくるのに、今朝は全く気が入らない。しばらく稽古からぬけて、一番後ろでみんなの動きを見学していた。結局最後まで稽古には加わらなかった。 
 稽古が終わると、マスターと目があった。私のほうに歩いてくる。 
「あなたの心は今日はどこにいますか、ブライアン?」
 小柄なマスターチャンは、首を上げて私の目をみた。心の奥底を覗き込むようなダークブラウンの瞳。マスターに嘘はつけない。
「マスター。今朝は心がどこかよそにいます。たぶん、日曜日の晩。テンダーロイン署で酷いことがあったから・・・・・・」
「ああ、はいはい」
 マスターチャンは2回、頷いた。
「その事件ならニュースで聞きました。ブライアンの友だちは誰か怪我をしましたか?」
「はい。四人。大怪我をして病院に担ぎ込まれました。二人は家に帰れたようですが、まだ二人、フラナガン巡査部長とラム巡査が病院にいます」
 私がそういうと、マスターチャンは「ラム、ラム・・・・・・」と真っ白な顎ひげを引っ張りながらつぶやいている。
「ラム・・・・・・ひょっとしてジェリー・ラム?」
「ハイハイ、ジェリー・ラム。友だちです」
「アア、そうでしたか。ジェリーは前にチャイナタウンのレクリエーションセンターでカンフー教えましたね。彼の家族のことはよく知ってますよ。彼の両親、知ってますね。ジェリーの奥さんはおなかが大きかったですが、赤ちゃん、生まれましたか?」
「はい、日曜日の夜、ラムが大怪我して病院に運ばれて。それでラムの奥さん、救急病院で待ってるとき陣痛が始まって、女の子が生まれました。あの晩ハッピーなことはそれだけです」
 私が言うと、マスターは目を細めて数回頷いた。
「奥さんと赤ちゃん、元気ですか?」
 マスターが訊いた。
「はい。奥さんも赤ちゃんも元気ですよ。ギャラガー警部の奥さんが出産のとき、ずっとついてたんですよ」
ギャラガー?」
 マスターは少し驚いたような表情で私を見た。
「今、ギャラガー警部といいましたか?」
「はい、殺人課のギャラガー警部です。警部も大けがして病院に運ばれたんですよ」
「そうでしたか。その警部さん、知ってますよ。髪の毛と髭が真っ白で背の高い警部さんね。リトル大阪で合気道してますね。奥さんにもあったことありますよ。それで警部さんの怪我は酷いですか?」
「いいえ。もう退院したから怪我は大丈夫だと思います。だけど、マスターがギャラガー警部と奥さんのこと知ってたなんて驚きました」 
 マスターは私を見て微笑んだ。
「はい、もっと知ってますね。アントニオストリートでブライアンが助けた女の子。メイリン・チャンと彼女の友だちの日本人の女の子」
 あの事件は新聞とテレビで報道されたので、たくさんの人が知っているだろう。でもマスターはニュースでは流れなかったことを知っているのかもしれない。タチバナマコトのことはどれくらい知っているんだろう。私はマスターに尋ねた。
「マスターはあの日本人の女の子のことも知ってるんですか?」
「はい、でも、知ったのは最近です。彼女は時々公園で竹刀、振ってますよ。天気の良い日は、お昼に行くとメイリンとご飯たべてますね」
「シナイ?   日本の剣道で使うシナイですか?」
「そうです。少しだけ彼女と話をしたことあります。彼女、日本で長い間、剣道を稽古してたと言ってましたよ、チャイナタウンには道場がないから素振りだけは続けているといってました」
 剣道ときいて、何故彼女が男の子みたいに見えたのか、少し納得した。
「すごいですね、マスターの知らない人っているんですか?」
「チャイナタウンのことなら、たくさん知ってますよ。知らない人は少ないですね。今日は、ラムの家に見舞いに行きますよ。ご両親、とても心配してるはずです。それから、ブライアン。最近、たくさんつらいことありましたね。でも、心の中で、最初に友だちのこと考えましたね。それはいいことですよ。たぶん、ブライアンの心はあと数日で太陽でますよ。でも、それまでの間、つらくても暴力や投げやりになることは良くないことね。いいですね、深呼吸して新鮮な空気を楽しみなさい」
 マスターチャンは穏やかなダークブラウンの瞳で私の顔を見て、にっこり笑った。
 マスターチャンと話していると、何か大きくて柔らかいものに包まれているような気がして、気分が楽になってきた。タチバナマコトの話が出たことも理由のひとつかもしれない。このまま家に帰ってもすることがないので、途中でサンフランシスコクロニクルの朝刊を買って、ユニオンストリート沿いにあるカフェに立ち寄った。トーストとコーヒー、ベーコン入りのフライドエッグとフライドポテトを注文し、料理が運ばれてくるまで新聞を読んでいた。第一面にはいつも暗いニュースしかないから、最初に読むのは漫画のコーナー。それから一面の記事に戻ったが、ちょっと目を通した途端にまた不愉快な気分に逆戻りした。テンダーロイン署の事件があってから、もう3日が過ぎているというのに、まだトップニュースになっている。今日の記事にはさらに不愉快なことが書いてあった。ブラックコミュニティーのリーダーがかなり激怒しているという内容である。

【――オマー・スコットは白人の警官によって不法逮捕され射殺された。早急に調査団によって事実関係を調査すると同時に、事件に関わった4名の警官を告訴する。オマー・スコットは家族思いで、妻と子供を心から愛しているすばらしい父親だった。彼は、我々コミュニティーの傑出した人物であり、信望も厚く・・・・・・】

 読んでいて気分が悪くなってきた。調査団の名前とメンバーの名前が出ていたが、全く聞いたこともないような団体である。
 オマー・スコットには暴行罪と麻薬の不法所持の重犯の前科がある。二人の女に子供を生ませているが、どちらの子も私生児で、一緒に暮らしたことも、金銭的な援助もしたことがない。そんなことはどこにも書いていない。こうして事実を捻じまげた情報が黒人のコミュニティーの中に広がっていき、彼らは白人を敵だと思うようになるのだ。他の記事もチェックしたが、オマー・スコットから暴行を受けて病院に運ばれた警官たちの記事はどこにもなかった。
 トーストを半分とコーヒーだけ飲んですぐに店を出た。

 腹が立つ。調査委員会にも腹が立つ。新聞記事にも腹が立つ。なんでもいいからぶん殴ってやりたい。殴ったらすっきりするような気がする。でも・・・・・・
 心のどこかでもう一人の自分が叫んでいる。
 だめだ、だめだ、だめだ!
 弱虫! 弱虫! 殴るしか脳のない弱虫め! そんなやつは家から出て行け!
 心の声は義理の父だった。私は弱虫じゃない!
 歩こう。とにかく歩こう。へとへとになるまで歩けば何も考えられなくなるだろう。
 私は行く当てもなく、ただひたすら歩いた。どこをどう歩いたのか、どこを曲がったのか全く覚えがない。歩いて歩いてハイドストリートのギャラガー警部の自宅の近くまで来てしまった。警部は今頃どうしているだろう。ここまで来たついでに、警部の家に立ち寄ってみることにした。頑丈な木の扉の横についているブザーをおすと、ケイコさんの声がした。インターホンに顔を近づけて自分の名前を言うと、驚いたような甲高い声が戻ってきた。
「えー! ブライアン?   早い! どうして? あなた、どうやって来たの?  あなた飛べるの?」
 何のことを言っているのかわからなかったが、「あの、歩いてきました」と返事をした。
「私、今あなたに電話したのよ、あなた出なかったからメッセージ入れておいたの。とにかく入って。今、鍵あけるから」
 すぐに電子錠が開く音がした。庭では3匹の猫が鬼ごっこをしている。黄金色の猫は私の顔を見るとさっと逃げてしまったが、黒白の小さい猫はまん丸の目で私をじっと見ていた。玄関の扉を開けると、ケイコさんが待っていた。彼女の顔はいつもどおりの明るく柔らかな表情に戻っている。
「あなた、時速100キロくらいで歩けるの? だって私が電話を切ったらすぐ来たんだから」
「電話してくれたんですか。アパートに帰ってないから電話のメッセージ聞いてないんです。仕事にも行けないし、今日もすることないから、ふらふら散歩してたらここまで来ちゃって」
「ああ、そうなの。あんまり早すぎるからびっくりしたわ。あのね、キースがあなたに電話しろっていったの。何か話があるみたい。今、書斎にいるわ。あとでコーヒーもっていくから先に行ってて」
 ケイコさんがスリッパをそろえてくれたので、私はそれを履いて、そのまま警部のいる書斎に直行した。

 書斎のドアをノックして中に入った。部屋の窓にはカーテンが引かれているので外の光がはいってこない。灯りはマホガニーの大きなデスクの上にあるスタンドと、柔らかなブラウンの光を放っている間接照明だけである。警部は黒ぶちのめがねをはめて、部屋の奥にあるデスクの前で左手で何かを書いていた。警部の額には包帯が巻かれていて、右腕は骨折用のプラスターの添え木がはめられ三角巾で首から腕をつるしていた。
「怪我の具合はどうですか?」
 私が声をかけると、警部はデスクから顔を上げてめがねを鼻の先までずらし、上目使いに私を見た。
「ずいぶん早いじゃないか。ケイコに電話してくれって言ったのは今さっきだよ」
 少し驚いたような声で警部が言った。
「朝、太極拳にいったんですが、家に帰ってもしょうがないから、ふらふら歩いてたらここまできてしまって」
「歩いてきた? ここまで? そのスポーツバッグをぶらさげてか?」
「はい。それで、警部はどうしてるかなと思って・・・・・・あの、ほんとは太極拳のあと、おなかが減ったからカフェで朝食を食べてから帰るつもりだったんですが、クロニクルの朝刊読んだら食欲がなくなってしまって。今朝の記事、みました? 頭にきて、だから歩こうと思って、とにかく歩こうと――」
「なるほど、それで気がついたらここに来てたわけか」
「はい」
 警部の顔に少しだけ笑みが浮かんだ。スタンドの明かりで照らされた警部の顔には、まるで猫と大喧嘩して、あちこち引っかかれたような傷がたくさんある。全部ガラスで切った傷だ。
「まぁちょうどいい。おまえに渡したいものもあったし。今朝の記事ならもう読んだよ。頭にきたって言うのは黒人のコミュニティーの記事だろ」
「はい。それです」
「まったく、吐き気がしてくる記事だ。世間の連中はPCPよりも、オマー・スコットの身の上話のほうに関心があるらしいな。新聞を破り捨ててやろうかと思ったよ。薬物でどれだけの人間が死んでるかなんて、誰も気にしちゃいない。どれだけの人間が薬物でぼろぼろになってるのか、そんなこと考えたこともない連中ばかりだ。私達のことなど、どこにも書いてない。ただ、無実の黒人を殺した警官、それだけだ。そのほうが新聞がよく売れるんだろう。コミュニティーのリーダーの話を真にうけた連中はホントだと思うだろう。黒人社会で何が起こってるか、やつらは何も知らない。暴力、殺人、ドラッグ、そんな事実は市民は誰も知らん。黒人のコミュニティーの連中ですら、本当のことを知ってるやつなんかほとんどいない。新聞社も無知な人間を増やすのに一役買ってるようだな。もっとも、黒人相手に事実を知らせたところで、そんなことは絶対認めたがらないがね」
 警部は私に目を向けると、口を結んで鼻から大きく息を吐きだした。そこへケイコさんがコーヒーを運んできた。ヘーゼルナッツの甘い香り。私の好きなコーヒーだ。
「この前はありがとうね、病院に来てくれて。フラナガン巡査部長とラムはまだ帰れないみたいね。ラムは早く赤ちゃんの顔、早くみたいでしょうね」
 ケイコーさんは渋い色合いの和風のコーヒーカップとシュガーポットを私の前においてくれた。
「病院に運ばれたって聞いたときはホントにびっくりしましたよ。だけど。警部が早く退院できてよかったですね」
「うん、だけど、もうちょっと入院しててくれたほうが助かったんだけど。だって、この人うるさいのよ。体が動かないから、あーしろこーしろって、いちいち私を呼ぶの。口の達者な赤ん坊って困っちゃうわよ。ハイ、コーヒー。お砂糖いれまちゅか? ギャラガー警部?」
 笑みを浮かべおどけた口調で言いながら警部のコーヒーに砂糖を入れているケイコさんと、病院の待合室で涙をこらえていた彼女が全く別人のように思えてくる。
 警部はコーヒーを一口飲むと、引き出しから何かが入っているビニールの袋を二つ取りだしてデスクに並べた。
「これ、おまえのだろ。返すよ。これを渡したくて今日はおまえをよんだんだ」
 それは私のリボルバーとミリタリーサバイバルナイフだった。
「ところでボーイ、おまえのリボルバーのラウンド(弾)はいくつ入れてある?」
「6発ですが。それが何か?」
 私が訊くと、警部は少しだけ口を尖らせて軽く数回頷いた。
「おまえが撃ったのは一発だろ。弾道検査で残りの5発も持っていかれたぞ。何を調べたかったのかはわからんが、6発分のラウンドの代金、請求するべきだね、いつ払ってくれるかは神のみぞ知るだが。しっかり請求したほうがいいぞ。それから、このナイフ、現場に落ちてたんだが、誰のかわかるか?」
 警部はナイフの入っているビニール袋を私に渡した。
「あ、はい、これ、たぶん日本人の女性のナイフですよ。あの時、現場で落としたと言ってましたから。彼女に会ったときに、このナイフを見つけてほしいと言ってました」
「それなら、ここにナイフの受領書があるから、彼女に渡す時に書き込んでもらってくれ。えっと、彼女、なんていった、たしか、タバチネ・・・・・・」
タチバナマコトです」
「ああ、そうだ、タチバナマコト。この受領書に英語で書きこんで、なるべく早く私のところに持って来てもらえるか?」
「はい、わかりました」
 私が答えると、ケイコさんが私に顔を向け尋ねた。
「その人、日本人?」 
「はい、絵の勉強のためにここに来たって言ってました」
「そうなんだ。じゃ、アーティスト。すてきじゃない」
「彼女も、自分のことを少しアーティストって言ってましたよ。もう一人の被害者の女の子の家に住んでるらしくて、一緒の学校に通ってるそうです。公園で時々竹刀を振ってるとか、彼女、日本で剣道稽古してたそうですよ」
「あら、ブライアン。彼女のこと詳しいわね」
 ケイコさんがにっこり笑った。
「いや、詳しいわけじゃ・・・・・・あの、ナイフ渡して受領書、すぐ持ってきます」
 私はデスクの上の受領書をとってポケットにしまった。それから銃とナイフをスポーツバッグに入れた。ケイコさんは笑みを浮かべて私のすることを見ている。
「よしわかった。もっと話をしたいところだが、まもなく今世紀最大級の拍動性の痛みが私の頭を襲う予定だ。今から少し眠らなければいけない」
 警部はそう言うと、椅子からユックリと立ち上がった。ケイコさんはあきれたような顔で警部を見た。
「もう、あなたどうしていつも簡単な話を難しく長くするの。普通に酷い頭痛がするって言えばいいのに、ねぇブライアン」
 私は噴出してしまっってしばらく笑いが止まらなかった。それからすぐに警部はベッドに横になったので、私は二人に挨拶してギャラガー邸を去った。
 リボルバーが戻ったときはほっとした。タチバナマコトのナイフが戻ったときは、急に心の中に渦巻いていた黒雲がサーッと消えたような気がした。これで彼女に会う口実ができた。

 アパートに戻ったのはちょうど12時。もう学校へ行ってしまっただろうか。でも、まだ家にいるかもしれない。すぐにタチバナマコトに電話を入れた。
「モシモシ」
 今日は2回の呼び出し音で彼女の日本語が聞こえた。
「ハイ、モシモシ。ミスタチバナ?」
 私も同じように日本語で言った。
「誰ですか?」
「サンフランシスコ市警のブライアン・オニール巡査。この前、ポーツマススクエアで一緒にランチをたべた警官」
「ハイハイ、あなた、小さい警官、きょうは何ですか?」
「君のナイフ、ありました。僕が預かっています」
「わぁ、ありがとう。ありがとうございます」
 電話の向こうから彼女のうれしそうな声がした。
「あの、君、今から出てこれる? ナイフ、返しますよ」
「はい、私 きょう、学校 行かない日。だから 1時、ポーツマススクエア。1時 あなた 来る。わたし、行く そこ、OK」
「今日、学校 行かない日! そうか。良かった。ポーツマススクエア 1時 いいですよ。じゃ、あの、君、ランチは? おなか減ってますか?」
「はい、わたし いつも ビッグハングリー」
 彼女と話していると、どうしても笑いが出てくる。ビッグハングリーか。わかりやすい表現だ。幼稚園の子供と話しているような気になってくる。
「それじゃ、今度は僕が何か買いますよ。えっと、ピザは? ピザ 好きですか?」
「ピザ。はい、好きです。何の種類のピザですか?」
 ピザの種類まで考えてなかったので、とっさに浮かんだのは、「アンチョビーとマッシュルーム」
「アンチョビイ。何ですか?」
「小さい魚。それでいいですか?」
「ハイ、魚 食べます。1時、会います。じゃ、バイバイ」
 彼女は電話を切った。

 ポーツマススクエアに行く途中、ブックショップに立ち寄った。辞書があったほうがいいかもしれない。アパートを出るとき、ふとそう思った。私の知っている日本語は「モシモシ」「スシ」「スキヤキ」「トーフ」この程度だ。彼女の英語力では、込み入った話は全くできない。二人の間にある言葉の壁を取り払うのに、多少でも辞書が役に立つかもしれない。
 ブックショップでポケットサイズの辞書を購入したあと、小さなピザ屋でアンチョビとマッシュルームの入ったラージサイズのピザとコーラを2つ買い、大きなピザの箱にコーラを乗せ、彼女の待っている公園に向かった。
 今日は彼女のほうが先に来て、ベンチに座っていた。私の姿を見かけたら、彼女が笑って手を振った。笑えるようになったんだ。この前あったときと同じジーンズにメンズのジャケット、腕には大きな腕時計。まだ口元の傷は消えていないが、目の腫れは引いて、真っ黒な瞳のアーモンドのような目で私の顔をみて「ハロー」と挨拶した。
 彼女の隣に腰掛け、ピザの箱とコーラを置くと、「これ、アンチョビ?」と彼女が言った。箱を開けたとたんに、大きな目でピザを見て、「ワオ! YUM!(おいしそう)  食べていい?」
 挨拶よりも食べることのほうが先のようだ。
 私たちは、簡単な英語でたわいのない話をしながらピザを食べ、箱がすっかり空になったときには、ピザの半分以上は彼女の胃袋へ消えていた。彼女の身長はだいたいケイコさんと同じくらい。でもケイコさんよりもやせている。この細い体のどこに入っていくのかその食欲にはびっくりする。
 彼女の故郷は日本の大阪。年は私より1つ下で21歳。サンフランシスコに来てまだ半年。英語の勉強よりも絵の勉強がしたくて、英語力がさほど重要視されない学校に入ったと話してくれた。剣道は10歳からはじめ、女の子が誰もいない道場だったので、男の子の友だちのほうが多く、いつも男の子とばかり遊んでいた、と彼女が言った。その話が出たとき、少し抵抗があったが、気になっていたことを思い切って質問した。
「あの、変なこと聞くけど、怒らないで。君を傷つけるつもりはないんだ、ただ、知りたいだけで。僕は全然気にしないけど、あの、ひょっとして、君はレズビアン?」
 最初は英語がわからないというようなきょとんとした顔で私を見たが、すぐに、「今、わたしは レズビアン、あなたいいましたか?」と聞き返した。私が小さくうなずいた途端、彼女は人目もはばからず、大きな声で笑い出した。ベンチのそばにいた人たちが何事かと思って私たちの方を見るので恥ずかしくなってしまった。
「ノーノーノー、ノーレズビアン!」
「ノー?」
「イエスエス! 私はノーマル」

 それから彼女は身の潔白を証明する説明を片言英語で一生懸命話してくれた。言葉に詰まると、少し考え、私の持ってきた辞書を使って単語を調べ、発音できないと私に辞書を見せて単語を指さし、おそらく5分ですむ話が30分かかってしまった。彼女の証言によると、男物の服を着ているのは、彼女の肩幅が42センチもあって、女の子のサイズが合わないこと、彼女の肩幅にマッチするのはアメリカ人のメンズのMサイズ。男物の時計は、文字盤が大きくて見やすいこと、ただそれだけの理由だった。
 私が話をするときは、彼女は私の口の動きをじっと見ている。時々、私の言葉を鸚鵡返しするが、発音がおかしいと、そこで話が中断して発音のレッスンになる。彼女の前で、なるべくゆっくり唇の動き、舌の動きを示してあげると、まるで歯医者のように私の口の中を覗き込んでくる。女の子からこれだけまじまじと口の中を覗き込まれたのは初めてだ。「ワンスモア。ワンスモア」と彼女が何度も言うものだから、しまいには笑えてきて、私の英語もおかしくなってしまった。何度練習しても上手く発音できなかったのが、悲しいことに私の名前「ブライアン・オニール(Brian O'Niel)」。彼女が言うと母音が混ざって「ブゥラァイアン・オニイルゥ(Buraian/ Oni-iru)」になる。これは日本語と英語の越えられない壁かもしれないと思いギブアップした。
 彼女は「ミスタチバナ」ではなく「マコト」と呼んでくれといった。私を呼ぶときは「小さい警官」ではなく「ブゥラァイアン」になった。
「ああ、そうだ、忘れるとこだった。ナイフかえすよ」
 アパートを出るときにコートのポケットにナイフを入れて、彼女に会ったらすぐに返すつもりが、ピザを食べるときにコートを脱いで、それから話に夢中になってしまって、ナイフのことをすっかり忘れていた。
「ありがとう」
 マコトがにこっと笑ってナイフを受け取った。私は彼女にナイフの受領書とペンを渡し、必要箇所を書き込んでもらった。
「あの晩、あの男の顔を切ったよね。アメリカ人の女性はそんなことできないよ。マコトは勇敢だ」 
 私がそういうと彼女は首を横に振った。
「ノーノー わたし、勇敢 ちがう。メイリン 助けたかった。それから、このナイフ、セルフディフェンスのナイフではないです」
「護身用に持ってるんじゃないの?」
「竹刀 直します。これで、こうします。みて、わたしのうで、竹刀の悪い場所、こうします」
 彼女は左腕を前に伸ばして ナイフで削るような格好をした。
「アア、わかった。ナイフで竹刀を削るんだ」
 私の顔を見てにっこり笑い、「ハイハイ」と数回うなずいた。
「あの路地のこと、お母さんとお父さんに言ったの?」
「いいえ。わたし、言わなかったです。なぜならば、もし 私がはなしたら。お父さんとお母さん、サンフランシスコは悪い町。そう思います。だから、お父さん、日本に帰れ 、わたしに 言います。だから、お父さんと お母さんは知りません。でも、メイリンはお父さんとお母さんに怒られました」
メイリンは怒られた? 何故?」
「はい、メイリンのお父さんとお母さん、古い中国の家族です」
「古い中国の家族?」
 意味がわからなかったので辞書を渡すと、少しの間、辞書をめくって言葉を捜していた。
「ア、これ、トラデショナル。メイリンの家族、トラデショナルチャイニーズファミリー(伝統的な中国人の家族)。娘はロックンロール 行ってはだめ。家にいて勉強しなければいけない」
「そうか。それで、メイリンは元気? 怪我はよくなったの?」
「はい、彼女は元気です」

 それから40分ほど、ベンチに座ってお互いの趣味の話をした。剣道のこと、合気道のこと、太極拳のこと。そして彼女が一番好きなことは、美しいものを見ること。
「ノブヒルに行ったことある?」私が訊いた。
「いいえ。わたし、チャイナタウンと学校のそばしかしらない」
「よし、じゃ今から行こう。景色が最高だよ」
 彼女は大きな目をもっと大きくして、元気な声で「イエス」と答えた。彼女が私のことをどう思っているのかはわからない。でも少なくとも、嫌いではないはずだ。私が嫌いなら、誘いを断るだろう。

 私たちはマーケットストリートを一緒に歩いた。普通、男なら、好き嫌いに関わらず女の子の手を握るのはそれなりの勇気がいる。ましてや気になる女の子なら手をつなぐまでにはある程度時間が要る。しかし彼女の場合、そんなことは言ってられない。手をつないでいないと危なくてしょうがない。「手をつなぐ」というよりも「手を掴む」というほうがぴったりかもしれない。彼女は前を見て歩かない。まるで生まれて初めて高層ビルを見るように、「わぁ、すごい」「「わぁ、高いね」といいながら、上を見ながら歩くので通行人とぶつかりそうになる。階段から落ちそうになる。
 今まで付き合った女の子は手をつなぐと私の腕に寄り添ってきた。しかしマコトは違う。寄り添うのではなく、ぶつかってくる。私は左手で彼女の右手を掴んでいた。彼女は手を握られても嫌がるそぶりは見せなかった。その代り、自分の行きたいほうに行く。私が左に曲がろうとすると、彼女は右に行こうとする。そこでお互い体がぶつかってしまうのだ。ケーブルカーに乗せたときはもっと困った。急な坂を上っていくケーブルカーの座席では、手すりを持っていないと体がどんどん下の方にいざってしまう。それが面白くてしょうがないらしい。「おもしろい、おもしろい!」といいながら、わざと体を私の方にずらしてくるので、私は隣に座った中年の女性を押しつぶしてしまわないよう、必死で彼女の体を支えていた。
 彼女はいたずら好きの妖精。やんちゃ坊主。こんな女の子は初めてだ。

 カリフォルニアストリートとメイソンストリートの角でケーブルカーをおり、そこからテイラーストリートに向かって歩き、やっとのことでノブヒルの頂上にある公園まで彼女を連行してきた。今日は天気がいいので風が気持ちいい。ベンチに座った途端に質問攻めである。
「あの教会は何?」
「あれは聖グレース大聖堂。エピスコパリアン派の教会だよ」(※米国聖公会(Episcopalian Faith))
「イピスパーアン? イピイピス」 
 彼女は首を少しだけ傾け、発音の練習をしている。私は、彼女にわかるように口を大きく開けて「エピスコパリアン」とゆっくり発音した。
「それ、何?」
プロテスタントの教会。英国国教会(anglican)と同じだよ。聖グレース大聖堂はエピスコパリアン派のサンフランシスコの本部みたいな教会だよ」
「すごくきれい。それじゃ、あれは?」
 彼女は、公園の反対側にある茶色のギリシャ風の建物を指差した。
「あれはパシフィックユニオンクラブ、すごく古い建物だよ」
「クラブ? 何のクラブ? わたしも入れる?」
「それは無理だ。あそこは金持ちの老人のクラブ。ほら、あっち見てごらん」
 私はパシフィックユニオンクラブの右のほうを指差した。
「あそこはマークホプキンスホテル」
「ホテル! そこ、お金 高い ホテル?」
「高いよ。一番上には高級レストランがあるんだ。すごくきれいなホテルだよ。最初はね、カリフォルニアの鉄道を作ったマークホプキンスという人のマンションだったんだ。彼の奥さんが、家をデザインしてアートスクールにしたんだ」
「アートスクール! 私の学校みたいに?」
「うん、すごくグッドなアートスクールだって聞いたよ。でも1906年の大地震で壊れてしまった。全部燃えてしまったんだ。そのむこうはフェアモントホテル」
「そこも、高い ホテル?」
「すごく高い。僕の給料じゃ泊まれないよ」
 彼女は、私の説明を頷きながら聞いていた。自分ではゆっくり話したつもりだが、もしかしたら、半分も伝わっていないのかもしれない。でも、そんなことはどうでもよかった。彼女に説明することよりも、アーモンド型の目を大きく開いて、私の指差す方向を見つめている彼女の顔を見ているほうが楽しかったのだ。

 ノブヒルからの眺めを楽しんだあと、フェアモントホテルへ彼女を連れて行った。豪華な家具で飾られたメインロビー、ゴージャスなカーペットの階段、私たちはホテルのロビーを一回りしてからカリフォルニアストリートへ出た。そこから急な坂道をくだり、パウエルストリートを走っているケーブルカーのラインを横切り、グラントアベニューを下ってチャイナタウンの近くまで戻ってきた。
「あの教会は何?」
 彼女はグラントアベニューの北東に立っている赤いレンガ造りの教会を指差した。
「あれはサンフランシスコで一番古い教会。カトリックの教会だよ。1906年地震で壊れたけど、また建て直したんだ。それで――」と言いかけた時、彼女が突然私の手を引っ張って走り出し、数メートル行って急に止まった。彼女の興味を引いたのは、北京ダックの店。店頭にはヒートランプのケースに入った北京ダックがおいてあった。
「いいにおい。おいしそう」
「もうおなかへったの?」
「おなか、減ってない。でも、いいにおい」
 北京ダックをじっと見てる姿があどけなくて、とても21歳の女性とは思えない。
「北京ダック、食べたことあるの?」
「はい、ずっと前、メイリン つれてってくれた。でも、どこの店かわからない。彼女の車で行ったから」
 メイリンの車。あの赤いフォードマスタングのことだろうか。
メイリンの車、この前メイリンが運転してた車、カッコイイね」
 あの車は前から気になっていたので 少し話題を車に切り替えようと思った。
「あの車、ほんとうは メイリンの車ではないです。お父さんの車。でも、時々、彼女 使う。でも、彼女のお兄さん、たくさん使います。メイリンのお兄さんは お父さんの会社で働いています」
「そうなんだ。お父さんは何の仕事してるんだろう?」
「インポートビジネス(輸入業者)」
メイリンもお父さんの仕事、手伝うの?」
メイリンは仕事 しない。ロン・チャンだけ働きます」 
「ロン・チャン? メイリンのお兄さん?」
「はい。でも、わたし、ロンのことよく知らない。メイリン あまり、家族の話 しない。でも、前に、ちょっと聞いた。メイリン、家族のトラブルあります。ロン、たくさん お金 持ってます。ロン、昔、警察とトラブルした。たぶん、ロンは ギャング?  わたし、よくわからない。メイリン、あまり話さないから」
 マコトはそれだけ言うと、また私の手を引っ張って次の店に走っていく。北京ダックの次は高価な美術品を販売しているアートギャラリー。
「ワォ!  ここ高い!   大阪 もっと安い! ブゥラァイアンは アート 好き?」
「好きだよ。でも、アジアンアートはよく知らないんだ」
「OK。じゃ、私が教える」
 彼女は笑顔で私の顔を見た。
 アートギャラリーを出たあとは、ストックトンストリートに並ぶ食料品店を見ながら歩いていった。このストリートには中国の食材を店頭に並べた店が軒を連ねている。観光客が喜ぶような土産物は何も置いていない。それでもマコトには、珍しい食材を見て歩くのが面白くて仕方ないようだ。軒先に積みあがった野菜や果物をじっと見つめ、「これは何?」「どうやって食べる?」と私に質問する。時には、買う気もないのに、店の中に入って行ってしまうこともあった。マコトに手を掴まれ、まるで連行されていく犯罪者のような格好で歩きながらストックトンストリートとワシントンストリートの交差点まで来たとき、彼女は腕時計を見た。
「あ、わたし、帰る時間。今日は 楽しかった。ありがとう。また、電話して、バイバイ」
 というと、掴んでいた手を離した。大きな目で私を見てにっこり笑い、バイバイと手を振って、私がさよならの挨拶をする間もなくストリートを走って行き、角を曲がって私の視界から消えてしまった。
 不思議な子だ。
「また電話して」と彼女は言った。これは一種の社交辞令か、それとも私にもう一度会いたいからなのか。とにかく今日は楽しかった。それに、チャンファミリーの情報も少し手に入った。ロン・チャン。警察とトラブル。ギャングかもしれない――どういうことだろう。

 アパートに戻ると、留守番電話にジョンのメッセージが入っていた。
『ハイ、わたしだ、ジョンだよ。おまえ、どうしてる? 会えなくてさびしいよ。グッドニュースがあるぞ。フラナガンとラム、明日、退院だ。フラナガンの家へ見舞いに行くが 一緒に来ないか? 帰りにラムのとこにもよろうと思ってる。それと金曜日、サウサリートにクルージングに行くぞ。キースとケイコさんも来るから、おまえも来いよ。誰か友だち誘ってもいいぞ。それじゃ、帰ったら電話してくれ』

 それからすぐにジョンに電話を入れたが留守だったので、「OK」のメッセージを残しておいた。今日のデートのことは、またあとでジョンに話そう。

 


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 木曜日 昼

 私とジョンはフラナガン巡査部長の家の前に立っていた。ここはサンセット地区のはずれ。サンフランシスコ動物園の近くである。玄関のブザーを押すと、フラナガン巡査部長の妹のアリスが出迎えてくれた。リビングルームに案内され、中に入ると、巡査部長はブラウンの皮の椅子にゆったり腰掛け、窓から外の景色を眺めていた。大きな窓の向こうには貨物船がゴールデンゲートブリッジをめざしてゆっくりと進んでいく。アリスはソファーの上に置いてあるブランケットをとって巡査部長の膝にかけると、私たちに軽く会釈して部屋を出て行った。それからすぐにスコッチウイスキーと氷の入ったグラスを3つ持って来てくれた。ジョンがウイスキーをグラスに注ぎ、しばらくの間、ウイスキーを飲みながら近況報告で時間をつぶした。巡査部長の足が元通り歩けるようになるにはまだ、一ヶ月ほどかかるようで、それまでの間、妹に面倒を見てもらっていると巡査部長が話してくれた。話題がタランティーノ警部補と内部調査委員会のことになると、巡査部長の声が低くなった。 
 巡査部長の話では、入院している間にタランティーノ警部補が内部調査委員会の連中を引き連れて病室にやってきた。彼の意識が少し戻り、医者が「話をしても大丈夫だ」というやいなや、スコット署長がとめるのも聞かず、病室に乗り込んで一方的に巡査部長の行為を責め立てて帰っていったらしい。巡査部長は意識はあったが点滴の最中で、起き上がることも反論することもできなかったようだ。
 
「全く酷いもんだよ。タランティーノは一分でも一秒でも早く人のキャリアを壊したいようだな。監理委員会(Board of Supervisors)なんてものがなければ、内部調査委員会など存在すらしてなかった。大体、こんなものがいるのかね? 何が正しくて何が間違ってるか、そんなことをいちいち人にチェックしてもらわなくても、常に自分のことは自分で律してきたよ。それができないなら警官なんかにはならんよ。私も君たちと同じ謹慎処分だ。全くひどい話だ。あんな組織は必要ない。昔も今も、あんなものはいらん!  彼らはゴミだよ、ゴミ!」
 巡査部長は外に目を向け大きな溜息を漏らした。私もジョンもフラナガン巡査部長と同じ気持ちだ。彼らは市警のゴミ。人間のクズだ。
 それから1時間ほど話をして巡査部長と別れ、アパートへ帰る途中でラムの家に立ち寄った。
 ラムの母親が赤ん坊を抱いて出てきた。だいぶ疲れた表情をしていたが、私たちの顔を見ると笑顔になった。ジョンがラム容態を訊き、会うことができるか、と尋ねると、ラムは今、眠っているのでまた別の日に来てほしいと言われた。でもラムの具合はだいぶ良くなっているようだ。ラムに会えない代わりに生まれたばかりの孫の顔を見せてくれた。気持ちよさそうに眠っている。しばらく玄関先でたわいない話をしたあと、お礼を言ってラムの母親と別れた。

 

 

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※ Board of Supervisors: 市民の要求から、どんな政党にも所属していない11名のメンバーによって設立されたサンフランシスコの行政執行機関。米国、特に中西部および東部の諸州における郡(county)の行政執行機関。

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クラウドハンド(Cloud Hands);
太極拳の技。左手で体の前で大きく下回りに円を描く、右手と交差したら、次は右手で同じように円を描く。この繰り返し。