雑記帳

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エンジェルダスト(22)

明け方まで降り続いた雨は、朝7時にはあがったが、太極拳の稽古に出かけるころには、町の上空は濃い霧で覆われていた。
 ワシントンスクエアには いつもの三分の一くらいの生徒しか集まっていなかった。みな、湿った空気の中で稽古をしている。私も仲間に入って湿った冷たい空気を体いっぱい吸い込んだ。稽古が終わった後、私は帰り支度をしているマスター・チャンに声をかけた。
「先生、あの、今、少し時間ありますか?」
 私が聞くとマスター・チャンはにっこり笑い、「はい、ブライアンのための時間はいつでもとってありますよ。今日は心の中に何がありますか?」
「仕事のことです。警察の仕事のこと。先生に少し聞きたいことがあるんですが、でも、先生が言いたくないことだったら言わなくてもいいです。先生はいろんな人から慕われてるし、コミュニティーの人をたくさん知ってるみたいだから、教えてもらいたいことがあるんですが」
「はい、たくさんの人、知ってますよ。何が知りたいですか? 私にできることなら ブライアンの仕事の手伝いしますよ」
 マスターは首まで伸びた真っ白なひげを撫でつけながら答えた。
「ありがとうございます。それで、先生、この前、メイリン・チャンのこと 知ってるって言われましたが、彼女の家族のことはわかりますか?」
「はい、チャンファミリーのことなら知ってますよ」
「ミスター・チャンは、えっと、ハワード・チャンのことですが、彼はどんな人ですか?」
「はい、彼はとてもいい人ね。働き者で、まじめな人ですね。ここのコミュニティーの人、彼の店で何人か働いてますね。いろんな慈善事業にも協力的で、たくさん寄付もしてます。みんな、ハワードを尊敬してますよ」
 マスターは髭を撫でながら頷いた。
「そうですか、すごく立派な人なんだ、そうか、わかりました。それで、メイリンのお兄さんはどうですか?」
 私が訊くと、髭を撫でていたマスターの手が止り、眉間にしわを寄せた。
「ロンも知ってますよ、何年も前に、お父さんと一緒にカンフーのクラスにきました。しばらく 稽古に通ってきましたが、ロンは、頑固で、素直ではなかったです。教室の規則にも従わなかったですね。そのうち、来なくなりました」
「ロンも先生の生徒だったんですか?」
「はい、短かったですね。あっという間に、やめましたよ。やめてからは、警察の厄介になること、度々ありましたね。盗みや喧嘩、悪い仲間にも入ってました」
「悪い仲間というと?」
 私が訊くと、マスターの表情が急に翳った。 
「ジョイ・ラック・ボーイズ。彼らはよくないね、とてもよくないグループですね」と、嫌なものでも見たときのような表情で、首を横に振りながら答えた。
「Ghee Kung Tong と、香港からきた14 K の傘下に入ってると聞きました。
とても恐ろしいグループです。彼らは悪いです、とても悪い。でも、ブライアン、なぜ、ロンのこと 知りたいですか?」
 マスターが私の顔を見た。
「先生、本当のこと言うと、ロンが何か悪いことに関わってるようなんです。でもまだ捜査が始まったばかりだから たくさんのことは言えないんですが。でも先生に聞いてよかったです。すごくいい情報もらいました。本当に感謝してます」
 マスターの顔が少し笑顔になった。
「ブライアン、お礼はいらないですよ。チャイナタウンはたくさん問題ありますね。ゴールドラッシュの時代からずっとですよ。でも、私たちはチャイナタウンが良くなるよう、努力してます。だから、私の知ってることが少しでも役に立つなら、いつでも協力しますよ」
 マスターは私の顔を見ながら強く手を握った。私はもう一度 感謝の言葉を伝え、お辞儀をして、マスターと別れた。

 午前中は部屋の掃除をして時間をつぶし、昼過ぎにアパートを出た。ツナサンドを食べながらシボレーを運転し、マスタングを探して一時間くらいチャイナタウンをさまよっていた。1時30分頃、ワシントンストリートからスポッフォードストリートに曲がっていく赤いマスタングを見かけたので後に従った。マスタングフリーメイソンのシンボルがついたレンガ色の建物の前で止った。
 ここはスポッフォードストリート36番地。今日は鉄扉の入り口の前にもう一台車が止っている。ブラックのキャデラックリムジン。マスタングはその後ろに止まっている。ブラックのスーツを着たロンが車から降りてきて、ビルの中に入っていった。鉄の扉の前には昨日と同じフェドーラ帽をかぶった男が立っていた。
 
 私は建物の周辺を一回りし、車を止める場所を探した。クレイストリートの曲がり角に黄色いラインが引いてあるパーキングスペースを見つけた。ここは商用車が荷物の積み下ろしをするために一時停車する場所である。うまい具合に一台分のスペースが空いていたのでここにシボレーを止め、マスタングを見張ることにした。エンジンを切り、座席に体を沈めるようにして座り、ダークブルーのニット帽を深くかぶってブラックのサングラスをはめ、しばらく車の中で待っていた。
 5分ほど過ぎた頃、ジョンから無線が入った。
「インスペクター101からインスペクター102 へ」
「はい、インスペクター102です。どうぞ」
「チャンネル2に変えてくれ」
「10−4」
 すぐにスイッチを切り替えジョンにメッセージを送った。
「101、はい、いいです。チャンネル2で応答してます」
マスタングを見つけたか?」
「イエス。今、コード7(staked out/ 張り込み中)です。スポッフォードストリート36番地にいます。あのメイソンのシンボルがついてるビルです」
「10−4、気をつけろ。荒っぽい連中だ。昼ごろ、そこで写真を撮ったら、外に立ってた男にカメラを取られそうになったよ。わたしはニューヨークから来た観光客だっていったんだが何を言ってもだめだ。最後に撮った写真がレザーコートを来た大柄の中国人だ。ちょうどリモ(limo/リムジン)から出てきたから、そいつの写真をとった後は一目散に逃げてきたよ」
「無事生還ですか。リモはまだここにいますよ。獲物は10分ほど前に家の中に入っていきました」
「10−4、リモのナンバープレートを確認してくれ。それから獲物を見失うんじゃないぞ。これからわたしと42(ギャラガー警部のこと)はミカドホテルに行って42の友達に会ってくる」
「OK。何か見つけたら連絡します。ハンティングを楽しんできてください」
 無線をきってシートに少し体を沈め、獲物が動くまで車の中で待った。

 

 


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※Ghee Kung Tong は 中国のフリーメーソン(秘密結社)

 

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 スポッフォードストリート36番地。午後1時35分。

 ブラックのリムジンのすぐ後ろに赤いマスタングが止った。アルマーニのブラックスーツにブラックタイのロン・チャンが車から降り立つと、フェドラ帽をかぶった屈強な体格の見張り番がロン・チャンに近づいた。
「ワ・シン・チュウ(Wah Sing Chu)が二階で待ってます」
「わかってる。金の話できたんだ」
 ロンは背広の左前を開き、大きく膨らんだ内ポケットを軽く叩いた。見張り番が鉄の扉を開けると、ロンは中に入り階段をゆっくり上がっていった。

 ビルの2階はオフィスになっていて、大きなダークブラウンの木製のテーブルと椅子が2脚置いてあるだけであとは何もない。ブラックのシルクのシャツにブラックタイ、ブラックのレザーコートを着たワ・シン・チュウが待っていた。年は30代後半、身長は約180センチ、幅の広い鼻、分厚い唇、切れ込みを入れたような細い目、水泡痘か天然痘におかされたような肌。スキンヘッドで眉毛もすべてそり落としてある。
「ミスター・ワ・シン、 お越しいただき感謝します。オークランドからここに来る途中で渋滞に巻き込まれてしまって、お待たせして申し訳ありません。お金のほうは用意してあります」
 ロンは相手の顔色を伺うような目つきで言った。
「遅れたことは気にしなくてもいい。それよりも新しいビジネスの話が先だ。金はあとでいい。立っていてはディスカッションができないだろ。座ったらどうだ、ミスター・チャン」
 ワ・シン・チュウは向かい合わせの椅子に目をやり、顎をしゃくって座れという仕草をした。ワ・シン・チュウの後ろにはブラックスーツを着た屈強な体格の若い中国人が二人、無表情で立っている。ロンは椅子に浅く腰掛けた。

「先ず私から聞くが、今、我々が流している製品を10パーセントまで増やしたい。それが可能かどうか、香港シンジゲートが知りたがっている」
「それなら簡単なことです」
「どうするつもりだ」
「今、香港から受け取っている品は両方とも中身の量を増やしても大丈夫です。そうするには適した品物ですから。二つとも中身がばれて押収される心配はないです。野菜に撒く薬剤のスプレー缶のほうは、サンタクルーズとメンドシーノで需要が多いですから、在庫を増やすのは問題ないですね」
「ロスとシアトル同様、サンフランシスコにも販売ルートを拡張したいと思っているが、品物の輸送に関しては問題はないのか?」
「心配はご無用です。州境で車のチェックはしてません。自由に入れます」
「それはすばらしい!  我々のタイムリミットは60日だ。60日間でそれができるか?」
「それだけあれば十分です。香港から届いた荷物を、ここの地下室で詰め替えてロスとシアトルのそちらが指定する場所に送ります」
「ベリィグッド!   実にすばらしい。 それでは、今後は君の報酬は33%、ビジネスがすべて完了したときはボーナスも加える。それでどうだ、ミスター・チャン」
 ロンは口元だけに笑みを浮かべて頷き、背広の内ポケットから分厚い封筒を取り出してワ・シン・チュウに手渡した。
「ビジネスはうまくいってます。最近は人気も出てきてすべて順調です」
「それはすばらしい!」
 ワ・シン・チュウは封筒の中から100ドル紙幣を10枚ほど抜き取ると、それをロンに渡した。
「これは私からの褒美だ。君の忠誠心が今後も続くことを願っている」
 ロンはワ・シン・チュウの後ろに立っている男をちらっと見てすぐに視線を外し、受け取った紙幣をポケットにしまった。

「ところで、ミスター・チャン。先日テレビで見たが、おまえのアパートに日本から来た留学生がいるのか? 妹の友人らしいな」
「はい。彼女ならうちのアパートの3階に住んでますが、それが何か?」
「先日、この娘をレッドドラゴンで見かけたが、テレビに出ていた若い方の警官と一緒だった。私としてはこれはあまりいい話ではない。我々の安全のためにこの娘を取り払えるか?」
「取り払う? どうやって?」
「方法はおまえに任せる。この娘は我々のビジネスのネックになるかもしれない。災いの種は今のうちに抜き取った方がいい。私のいってることがわかるか、ミスター・チャン?」
 ロンは黙ってうなずいた。
「よろしい。それでは娘の方は任せる。中身を増やすよう香港には伝えておく。その製品の発送準備が整ったらこちらから知らせる」
 ワ・シン・チュウは二人のボディーガードを従えて部屋から出て行った。

 

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クレイストリートの角で張り込みを始めて1時間が過ぎたころ、鉄の扉が開いてビルから男が三人出てきた。背の高い黒ずくめの男がリムジンの後部座席に乗り込みドアが閉まるとこちらのほうにゆっくりと近づいてきた。私は急いでニット帽を引っ張り、ラジオのスイッチを入れてラテンアメリカのミュージックが流れているチャンネルにあわせ、音楽に聞き入っているように見せるため、頭を上下に振ってリズムをとった。リムジンはシボレーに覆いかぶさるようにしてカーブを左折し、クレイストリートに出ると一気に加速して走り去った。リムジンのナンバープレートは" AHCHU"。ポケットから手帳を取り出してナンバーを控え、ロンが出てくるまで待った。
 15分後、ロンが平べったい箱を抱えてビルから出てきた。彼は車の正面から回って運転席に乗り込むとすぐに車を発進させた。マスタングは私のシボレーが止っている角を左に曲がり、クレイストリートを下ってグラントアベニューの方に向かって走っていった。
 ロンが出てきたビルの前にはフェドーラ帽をかぶった男が立っている。
『おまえにはまだ用があるからな。後で戻ってくるからそこで待ってろよ』
 シボレーのバックミラーに写った男に向かって心の中でそう言った。私はシボレーを発進させ、安全な距離を保ってマスタングの後を追った。

 ロンが最初に立ち寄った場所はテンダーロイン。エリスストリートとレーヴェンウォースストリートの交差点の近くにある駐車禁止エリア。テンダーロインをパトロール中に、赤いマスタングを見つけた場所である。
 アパートの前にドラッグディーラーのタイリー・スコットが立っている。ロンの車が止ると、タイリーがすばやく車に寄っていった。助手席の窓が開くと、タイリーは手に持っていた白い封筒の中身を窓越しにロンに見せている。封筒の中身は札束かもしれない。その封筒と引き換えに、タイリーはB5サイズほどの分厚い封筒を受け取った。マスタングが走り去るとタイリーはアパートの中に駆け込んでいった。私は時間と場所を手帳に書き込み、マスタングの後を追った。

 レーヴェンウォースストリートをあがりポストストリートの交差点まで来ると、曲がり角でマスタングが止った。猫背で背の低い白人の男がビルの陰から出てきてマスタングに近づいていった。助手席の窓が開くと白い封筒を投げ入れた。助手席の窓から分厚い封筒を持った手が差し出され、猫背の男はそれを受け取ると再びビルの陰に入っていった。私は時間と場所をメモした。
 次にマスタングが止った場所は、サターストリートとポルクストリートの角。しかし、マスタングに近づいてくる人間はいない。ロンは助手席の方に体を倒して何かしていたが、すぐに車はサターストリートを西に向かって走りだした。フィルモアストリートで左に曲がり、坂を下ってエディーストリートの交差点を左に折れ、車は化け物でも住んでいそうな壊れかけたビクトリアンハウスの前で止った。ビクトリアンハウスの玄関前にある階段にグリーンのズボンにブルーのシャツを着た黒人が座っていた。男は立ち上がってマスタングの助手席のドアのほうに近づいていった。車の窓が開いた。男は白い封筒を窓から投げ入れ、B5サイズの封筒を受けとった。

 三回とも、立ち寄った場所ですることは同じ。白い封筒と引き換えにB5サイズの分厚い封筒を受け取る。疑う余地はないだろう。これはドラッグの取引きだ。

 マスタングは”プロジェックト”と呼ばれている低所得者向けのアパートが建ち並んでいるエリアに入ってきた。ここは、PCPに毒された化け物ポール・パパスが逃げ込み、K−9ユニットのシェパードに噛み付かれた場所である。
 アパートの前にマスタングが止ると、小さな公園から背の高い黒人が二人、姿を現しロンの車のほうに歩いて行く。マスタングの窓が開くと助手席に白い封筒を投げ込み、分厚い封筒を受け取った。ロンはすぐには車を動かさず、受け取った白い封筒に何か書いている。それが終わると、助手席の窓から少しだけ頭を出して、二人の黒人とほんの1分ほどの短い会話をした後、マスタングは別の目的地に向かって走っていった。

 シボレーは30秒遅れて発車した。
 V8エンジンを唸らせながら後を追うブラックのシボレー。まるでジャングルで獲物をつけねらうブラックパンサーのようだ。狙った獲物は必ずしとめる危険な黒ヒョウ。私はこのシボレーに”ブラックパンサー”というニックネームをつけた。



 夕方になってまた雨が降り始めた。鈍よりとした灰色の雲が空を覆っている。辺りはずいぶん暗くなってきた。
 マスタングはサザンパシフィック鉄道を渡り、サンフランシスコの南東部に位置するハンターズポイントに向かっている。10分ほど車を飛ばしてオークデールアベニューを右に折れ、フェルプスストリートの手前でマスタングのブレーキランプがつき、バラック小屋のような小さな酒屋の横に止った。
マスタングの前に赤いキャデラックが停っている。ドアが開いて黒人が降りたち、マスタングの助手席側に回った。助手席の窓が開くとすることは同じ。白い封筒を投げ込み、分厚い封筒を受け取る。
 このエリアは黒人のゲットーである。ロンは封筒を渡すとすぐに車を発進させた。ベイシャワーブルーバードを15分ほど飛ばし、サニーデールストリートの曲がり角で停車した。15歳くらいの黒人の子供と封筒の交換をするとすぐに車を発進させ、数ブロック行ったところで再び止った。
 ここには" Pink Palace" と呼ばれている低所得者向けの10階建てのアパートが建っている。ここもプロジェクト同様、貧困者救済策の一環として市が費用を負担して建設したアパートである。”ピンク”と名前がついているが住民はすべて黒人である。このアパートには白人の警官はうかつには近づけない。警官が中に入ろうとすると、上からものを投げつけられる。テレビが落ちてくる。窓から警官に向かって発砲する。
 マスタングが止ると、"Pink Palace"から18歳くらいの黒人が出てきた。今までと同じように封筒の交換をするとすぐにマスタングをUターンさせ、来た道を戻って行った。私もこんなところで長居はしたくない。ここの連中は頭の狂ったケダモノだ。30秒待たずにシボレーを発進させた。

 マスタングはリックハイウェーをかなりのスピードで飛ばしていく。その後をブラックパンサーが追う。マスタングはハンターの存在にはまったく気づいていない。このままハイウェーを進みベイブリッジを渡ればオークランド市だ。
 ハイウウェーの途中での建物が見えてきた。このあたりから急に交通量が増え、車線の数も多くなってきたので獲物を追うことが難しくなってきた。マスタングは何度も車線変更をする。見失わないように、左右にゆれるマスタングのテールランプを必死で追いかけた。
 車はベイブリッジを渡ると右の方にカーブしているニミッツフリーウェイー(Highway 880)に乗り換えウエスオークランドに入った。ここは黒人の居住区だがフィルモア地区とは雰囲気が違う。廃墟のようなビクトリアンハウスと低所得者向けのうす汚いアパート。いたるところゴミの山。ビルの壁は落書きだらけ。ウエスオークランドは警官の数が極端に不足している。それをいいことに、頭のいかれた連中がのさばり暴力が街を支配している。いつ敵が飛び出すかわからない。獲物を追うブラックパンサーに緊張が走る。
 ロンは14番ストリートとフィルバートストリートの交差点の手前に車を止めて黒人に封筒を渡すと、再びハイウェーに乗ってベイブリッジを渡り、サンフランシスコ市内に引き返した。サンフランシスコの街の灯に向かって走っていると、少しずつ緊張がほぐれてくる。






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※ハンターズポイント:海軍の造船所があります。テンダーロイン同様、ここも犯罪多発エリア

オークランドは現在も殺人が日常茶飯事と言ってもいいくらい危険なエリアになっています。



 マスタングはチャイナタウンに戻ってきた。クレイストリート1214番地の3階建てのアパート。チャンファミリーの自宅。一階にはチャン夫妻、二階はロン、三階にはメイリンとマコトが住んでいる。ロンはカーブの縁石に沿って車を止めて降り、アパートに入っていった。それから数分して二階の部屋に明かりがついた。私は手帳を出してロンが帰宅した時間を書き込んだ。マコトの部屋は電気が消えている。たぶん、もう寝てしまったんだろう。私はシボレーをバックさせ、ストックトンストリートのほうへ坂道を降りていった。
 これからもうひとつ、個人的な仕事が残っている。広東インポートの店に立ち寄り、安物の黒ぶちめがねと玩具の手錠を買った。シボレーに戻ってUターン禁止エリアでUターンし、クレイストリートからスポッフォードストリートに入る曲がり角に車を止めた。車の中で玩具の手錠を箱から出して自分の手首にはめてみた。玩具にしてはよくできている。これなら大丈夫だ。
 ピーコートのポケットに手錠と黒ぶちめがねしまい、ニット帽を眉毛の辺りまで引っ張って車から降りた。ビルの角から頭だけを出してメイソンのシンボルマークを掲げたレンガ色のビルの方を見た。フェドーラ帽の男はまだそこにいる。あいつは見張り番だろうか。ドアの前を行ったり来たりしている。私はポケットから黒ぶちめがねを取り出してはめ、ピーコートの襟を立ててニット帽を深くかぶり、腰の曲がった年寄りの振りをして、フェドーラ帽の男の方に歩いていった。男との距離が2メートルくらいになったとき、ポケットからタバコを1本取り出して、顔は下を向いたまま、タバコを持った手だけを上げて、中国語なまりの英語で男に向かって叫んだ。
「ハイ、ハイ、火、あるかね(Hei! Hei! light)」
 腰を曲げ、顔がわからないように下を向いたままタバコを持った手を揺らしてもっと男に接近した。近所のビルの窓から明かりが漏れているが、私の顔がはっきりわかるほど明るくはない。
「ハイハイ! 火、あるかね?」
 私がもう一度言うと、男は怒ったような口調の中国語で何か言ってきた。私の頭をつかんで後ろに押し戻そうとしたので、そいつの顎に思いっきり右のカウンタークロスをぶち込んでやった。体がでかいくせに、私のパンチ一発で吹っ飛んだ。男はすぐに体勢を立て直して間合いをきり、カンフースタイルで構えた。突然そいつの蹴りが飛んできたので、私は腰を落とし腕を交差させ、男の足をクロスした両腕の間でキャッチし、そのまま上にジャンプ。クロスした腕を離すと、ターゲットを捕らえ損ねた男の足が空中で踊った。すかさず、空を舞う男の足首を右手でつかんで、少しだけ私の右側にまわしてやった。バランスを崩した相手にはほんの僅かな力を加えるだけで簡単にひっくり返る。無様な格好でぶっ倒れた男をすぐに仰向けにさせ、男の腿を左手で押さえつけ、顔面にグラウンドパンチを一発みまってやった。男は「グブッ」と変な声を上げた。
 強そうに見えるのは外見だけか。あっけなく気絶してしまった。
「弱いくせにブルース・リーを気取るのはやめとけ!」
 私はポケットから玩具の手錠を取り出して男の右手首にかけ、配水管のパイプのところまで引きずっていって、男をパイプにつないでやった。
「ジョンをいじめたお返しだ!  観光客にはもっと優しくするもんだ!」
 誰かに見られる前に急いでシボレーに戻り、アクセルを一気にふかし、勝利の雄たけびを上げながらブラックパンサーは本部に向かった。



 午後9時30分にギャラガー警部のデスクに戻り、午後10時にはジョンが運転するフォードLTDの後部座席に座っていた。これからタレコミ屋に会って、その後はナイトクラブに聞き込みに行くと言われた。
 ロン・チャンがどこで何時に何をしたか警部にすべて伝えたが、フェドーラ帽の男をぶん殴った話はしなかった。私は あの場所にはいなかった。
やったのは得体の知れない中国人の年寄り。それは私ではない。
 私がロンを追いかけている間、警部とジョンはミカドホテルでサミー・タナガワと会っていた。車の中でジョンと警部が話しているのを黙って聞いていた。
 サミー・タナガワはエンジェルダストに関してはまったく初耳だったようだ。ただ、彼らも香港マフィアのトライアドを警戒している。
「香港マフィアの14Kを恐れているか」というギャラガー警部の率直な質問に サミーは「イエス」と答えたらしい。
 ベイエリアのタナガワファミリーは、サンフランシスコではいたって紳士的な組織で、不動産業で健全なビジネスを展開しているらしい。サミーは日本から来たクライアントをラスベガスに招待している。

 警部とジョンの話の中に、時々、ジェニファー・ジョーンズに似ているとか、エキゾチックな女性とか、そんな言葉が出てくるが、ひょっとしたらこの女性は 私がギンズバーグであったキキ ではないだろうか。その女性の名前は二人の会話の中に出てこないが、どうもそんな気がする。彼女はベガスに来る日本人観光客にコールガールの世話をする”プライベートコンダクター" と呼ばれている仕事をしているらしい。
 二人の会話を聞いていて、疑問が浮かんだ。
「あの、警部、訊いてもいいですか? サミーは日本のマフィアでしょ。そんな人の話、信用してもいいんですか? どうして、警部はヤクザにそんなに接近するんですか?」
 助手席に座っていた警部が後ろを振り返った。
「サミーと私は 昨日今日 知り合った仲じゃないからな。彼とは協定を結んでいるんだ。サミーは私に情報を流す、その見返りに 私も時々 情報を与える。それで今までうまくいってる。サミーからもらった情報が事件解決に大いに役立ってる。もちろんこれは 我々の間の秘密だがね」
 警部はにやっと笑った。

 刑事がヤクザと情報の交換をし、売春の斡旋をしていることも知りながら、見逃している。それで事件解決に役立ってるからといわれても、何かすっきりしなかった。そんな話をしているうちに フォードは、タレコミ屋との待ち合わせの場所についた。
 モントゴメリーストリート沿いにある成人映画専門で上映している映画館の前に車を止め、「Enrico's Coffee House] まで歩いていった。歩道側はガラス張りになっていて、外を行きかう人々の姿がよく見える。普通なら、こういう店は 通行人を観察するために窓側の席を選ぶが、今夜は、外からは見えない、一番奥のテーブルについた。
 5分ほどして、背の低い男が私たちのテーブルにやってきた。
髪の毛はオイルでぎらぎらしていて、顔は見るからにずるがしこい感じがする。
「ハイ、ジョー。元気か? こっちの大男はミスター・K,小さい方は ミスター・O,心配するな、私の仲間だ」
 警部はその男に私たちを紹介した。
「ミスター・Gのお仲間ですかい。そりゃ、今後ともよろしく」
 ジョーとよばれたその男は いやらしい笑みを浮かべて ギャラがー警部の隣に座った。
「今日は、なんだい? ミスター・G」ジョーが言った。
 この男の髪の毛から、ニンニクの匂いがしてくる。
「おまえ、エンジェルダストとかPCPという名前を聞いたことがないか?」
「知ってますぜ。この辺じゃ、そんな名前より、”Bad shit (不運)”っていってる連中の方が多いですがね。ばら撒いてるのはChinktown の Chinksって野郎だ。Chinktown の外へもばら撒いてるって話ですぜ。そりゃ、酷いしろものらしいじゃねえですか。そいつを使うと、頭、狂っちまうとか。
こんなもんが出回ってるおかげで、地元のボスはカンカンだ。小便引っ掛けて、捨てちまえって言ってますぜ。マリファナに浸したり、スプレー振りかけたりして、連中は売りさばいてんで、地元の連中はみんな怖がって、マリファナを買わねぇ。Bad shit を吸ったマリファナなんぞ、つかまされたら、ほんとに不運(bad shit) だ。誰だって狂いたかねぇからな。おかげで商売 あがったりだって、この辺のボスは、頭きてますぜ。オレのしってるのはそれだけだが、ミスター・G、 なんでこんなこと知りたいんだ?」
「今、我々はこの事件に関わってる、いいか、ジョー、おまえの言ったように、こいつはとんでもなく悪い薬だ。使ったやつは 狂い死にだ。
ジョー、おまえの新しい仕事は、私がこれを調べてると、あちこちで言いふらしてほしい。もちろん、おまえのボスたちにもだ。ミスター・Gがかぎまわってると言いふらすんだ。それで、誰が作ってるか、誰が売ってるか、これを使ってるやつは誰か、なんでもいい、わかったら 知らせてくれ。いいな」
 ジョーはにやりと笑ってうなずき、警部は新品の20ドル札をジョーに渡した。それをポケットに突っ込むと、ジョーは店を出て行った。
「あいつはこの辺のストリートじゃ、”イタチ(Weasel)”と呼ばれてる男で、ギャングの雑用係みたいなことをしてる。自分で自分のことをギャングにはなくてはならない重要人物だと思ってるようだが。マァ見ての通りだ。
私としてはたった20ドルで動いてくれるから、助かってるがね」
 警部が言った。
 それから私たちは注文したコーヒーを一気に飲み、店を出て 次の目的地に向かった。コーヒーショップを出て、半ブロックほど下ったところに、「Big AI's」
というナイトクラブがある。[Totally Nude Co-eds(女子学生ヌード) ] とかかれた大きなネオンサインが、ダークグレーの空をバックに白っぽいまぶしい光を放っている。入り口のドアを開けると、歩道から中の様子が見えないようにするために長いカーテンがかかっていた。
 店内はロックンロールの騒音公害。バックステージではロックのリズムに合わせ、金髪のヌードダンサーが腰をくねらせ、髪振り乱して踊っている。
彼女が動くたびに 大きな胸と腹の肉が一緒に揺れる。
「オイ! 彼女、女子学生に見えるか?」
 ジョンが 私の耳元に顔を近ずけて言った。私も同じことを言いたかった。どう見ても30歳過ぎにしか見えない。肉がだぶついて、お世辞にも色っぽいとは思わなかった。

「ここに、ヴィニーはいるか?!」
 警部はバーのカウンターでバーテンダーに向かって叫んだ。バーテンダーは頭を横に振り、同じように大きな声で叫んだ。
「ミスター.アバンダンドはここにはいませんよ。ヴェスビオ の店にいきました(Na, Mr.Abbandando ain't here. He's down at Vesuvio's)」
 警部はうなずいて、私とジョンに店から出るよう、目で合図した。店から出てもまだ耳の中でロックが鳴り響いているように感じた。ジョンは外に出るとすぐに警部に言った。
「それにしても、ひどいもんだな。どこが女子学生だ。ミカドホテルで世話してもらった方がよほどましだ」
「ああ、そうだとも! サミーはいつも一流を好むからな
(that's my boy! Sammy always gose for class act)」 警部はにやりと笑って答えた。

 外は小雨がぱらついている。私たちは『City Light Book Store』の近くにあるローカルバー『Vesuvio's』まで、コロンブスストリートの坂を下っていった。歩きながら警部が ミスター・アバンダンドについて説明してくれた。
 ヴィンチェンツォ・アバンダンド――地元のギャングの副ボスで 「vesvio's]
 のオーナーである。
『Vesuvio's』 は Big AI's とは対照的に、イタリアンオペラが流れていて、静かな店内にはバーテンダーとグレーのシルクのスーツを着た男以外 誰もいなかった。スーツの男は小さなテーブルでラザニアを食べていた。
警部はその男のテーブルに歩み寄り、静かな口調で言った。
「食事の邪魔をして悪いが、少し話しをしても かまわないか?」
 男は食事の手を止めテーブルから顔を上げた。
「オオ! ギャラガーじゃないか! しばらく会わなかったが,どうしてた?」男はにっこり笑って言った。
「私は元気だよ。この腕以外はな」
「また、奥さんにやられたか?」
 男の顔には屈託のない笑みが浮かんでいる。きれいに手入れされたブラックのカーリーヘア。黒い瞳、褐色の肌、年齢は40歳位に見える。  
「それより、その二人の友人を紹介してくれよ。アイリッシュヒットマンの仲間か?」
「ああ、そうだった、紹介が遅れて申し訳ない。私の仲間のケリーとオニールだ」
 警部に紹介され、私たちはお互いに握手をして挨拶した。
「座ってゆっくりしろよ。何か飲むか?」ヴィニーが訊いた。
「いや、私たちはすぐ帰るよ、ちょっと訊きたい事があって寄っただけだ、食事を続けてくれ。話はすぐすむ」
「そうか、残念だな。 それで、何だ? 話って?」
「ドラッグのことだが、 PCPとかエンジェルダストという名前を聞いたことがあるか?」
「ああ、知ってる。最近、ストリートで出回ってるようだが、最悪のブツだな、これは。これで頭がおかしくなった連中を何人も知ってる。ほとんどブラックエリアばかりだがね。しかしボスは完全に頭にきてる(the boss is pissed off)。ストリートの連中はかなり怖がってるみたいだが。中に混ざってるんじゃないかって びくついてるんだ。だからマリファナに手をださなくなってきてる。まったく、とんでもない話だよ。香港から来た連中が、このあたりを侵食してるようだが、聞いた話じゃ、たしか、ワ・チュウ、
確かそんな名前だ。この男が、仕切ってるらしい。このままこいつをのさばらせたら、ストリートは香港に完全に食われてしまうだろ、ボスの怒りも爆発寸前だ」
 ヴィニーはナプキンで口をぬぐい、グラスの水をすこし飲んで、警部の顔を見た。
「あんたのボスはなんて言ってる?」警部が訊いた。

「私のボスだけじゃない、ボス連中全員だ。ワ・チュウを殺る。そう言ってる」
「なるほど、やはりそうか・・・・・・」
 警部はため息をついて、向かい合わせの椅子に腰掛けた。
「聞いてくれ、ヴィニー。ボスの言ったこと、それが一番気にかかってたことだ。いま、我々も この捜査に関わってる。おまえの言ったワ・チュウ。
これはいい手がかりだ、感謝するよ、ヴィニー。それで、ヴィニー、おまえに頼みがあるんだが。ワ・チュウは私が何とかする。手下どもも 全部ひっくるめてだ。彼らを全部まとめて シャットダウンするつもりだ。だから、それまで、手を出さないでくれと、ボスに言ってくれないか」
 ヴィニーは大きくうなずいた。
「わかったよ、ギャラガー。ボスに伝えておく。おまえはいつも フェアだからな。ボスも おまえの頼みなら、わかってくれるはずだ。しかし、あまり長くは待てないぞ。連中が ダスト(ごみ)をばら撒いてる間に、こっちの商売が干上がってしまうからな。期限は2週間。待てるのはここまでだ」
「OK、約束しよう。2週間でけりをつける。ヴィニー、おまえには感謝してるよ」
 ヴィニーが微笑んだ。
「友達だろ。又遊びに来てくれ、次は旨い酒を用意しておくよ。おまえのアイリッシュヒットマンの分もな」
 私たちは、簡単に別れの挨拶をして店を出た。
「一体、何人 ”ともだち”がいるんだ、キース。ギャングのご機嫌をとるのも大変だな」
 車に戻る道すがら、ジョンが警部に言った。
「おまえが思ってるような友達じゃないよ。お互いを尊重するとか称賛するとか、そんなものは彼らの社会には存在しないからな。それでも、こっちが望むことをやってくれるなら、許せる範囲内で、こちらも目をつぶってる。
許容範囲から出たときは、彼らが自分たちで速やかに処理すれば、黙って蓋をしてそれで終わりだ。もしそれができなければ、二度と立ち上がれないように 彼らの頭上に大量のレンガを落とす。彼らも十分 そのことは承知してるはずだ」
「魚心あれば水心か」ジョンが言った。
「まぁ、そんなところだ。彼らに言わせたら、これはビジネスだ」



 本部に着くまで、車内で今後の打ち合わせをした。
「すこし気がかりなことがあるんだが・・・・・・」
 警部が言った。
「ヴィニーは2週間待つといったが、もしもボスがワ・チュウを殺すつもりならそんなに待てないはずだ。殺すと決めたら即、実行に移すからな。ヴィニーの話し振りからすると、まだ明確には決まってないようだが、とにかく私たちも急ぐ必要がある。来週はかなりハードスケジュールだぞ。それから、これはジョンが今日、撮った写真だが――」
 警部はポケットから写真とペンライトを取り出して、私に渡した。
「そこに写っている男がおそらくワ・チュウにまちがいない」
 写真にはリムジンから降りようとしている黒いコートを着た大柄の男が写っていた。私がシボレーの中から見たときは、顔まではわからなかったが、ジョンが写した写真には男の顔がはっきり写っていた。
「気味の悪い男だろ」
 運転しながらジョンが言った。確かにこの顔は、一目見ただけでぞっとする。
「明日、この写真を持ってゴールデンゲートアベニューにあるFBIの支局に行って、組織犯罪専門のエージェントに聞いてきてほしい。もしも彼らがこの男を知ってるなら何か情報をくれるはずだ。それから、サンサムストリートの税関が何か知ってるかもしれないから、そこにも立ち寄ってほしい」
「はい、わかりました」
「ロンのほうは、ジョンと交代だ、3日もシボレーじゃ、気付かれる心配があるからな。明日はFBIのエージェントに会うから、そんな格好じゃまずいぞ。ブラックの上等なスーツがいいな。外の仕事が全部終わったらオフィスで広東インポートのゴミの整理だ。今日一日じゃとても無理だった。まだ半分以上のこってる。明日はおまえにも手伝ってもらいたい」
「はぁ、上等のスーツでゴミあさりですか」
 私が言うと、ジョンは軽く笑ってバックミラーに映る私に向かって言った。
ギャラガー警部に言わせると、捜査官の仕事は90%があくびがでるほど退屈で、残りの10%が冷酷なテロリストなんだとさ。まぁ、これも経験だ。がんばれ、オニール」


 それから5分ほどで本部の駐車場に到着した。ジョンは私と警部を降ろすと、自分のワーゲンには乗り換えずフォードで帰っていった。今夜はシボレーの助手席には警部が座っている。地下の駐車場を出てギヤをトップに入れ一気に加速すると、警部が言った。
「シボレーの乗り心地はどうだ?」
「最高ですね」
「そうだろ、この車は最高だ。マックイーンのブリット、見たことあるか?」
「はい」
「あのカーチェイス、覚えてるか? あれはすごいだろ。マックイーンがのってるのはマスタングだが、このシボレーのほうがもっと性能がいいぞ。そう思うだろ。どうしてこのシボレーを使わなかったんだろうなぁ」

 警部の家に着くまでずっと車の話をしていたが、ほとんど警部一人でしゃべっていた。クラシックとアジアの芸術しか興味がない物静かなインテリタイプだと思っていたが、案外、私以上に”やんちゃ坊主”なのかもしれない。警部を家まで送り、自分のアパートに戻ったときは時計の針は深夜1時をさしていた。