雑記帳

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テンダーロインノワール(4)

  ケリーとオニールはしばらくの間、エリックのそばにいた。教会のダイニングルームの扉が開き、行列が少しずつ前に進み始めると、ふたりは教会へ戻り、入口をふさいでいるホームレスたちの間を縫ってダイニングルームへ入っていった。ケリーが中を見回しウィリアム牧師を探している間に、オニールは、食事をしているホームレスに声をかけながら、テーブルとテーブルの間をゆっくり歩いていた。

  ケリーはウィリアム牧師と簡単な挨拶を交わしたあと、エリックのことを話した。彼が風邪をひいていることを伝え、具合がよくなるまで世話をして欲しいと頼むと、ウィリアム牧師は快く引き受けてくれた。ケリーは深く感謝し、ポケットから5ドル紙幣を取り出した。
「大した額ではありませんが、エリックの薬か食べ物の足しにしてください。パトロール中はあまりお金を持ち歩かないようにしてるので、これが今日の全財産です」

 ウィリアム牧師はお金を受け取ると、穏やかな笑みをたたえ、ケリーに言った。
「ありがとうございます。ケリー巡査。小さなことでいいんです。どんなに小さなことでも助けになります」

 

祈り

一時間後、エリックは教会のダイニングルームで夕食を食べていた。暖かい部屋と暖かい料理のおかげで、体の具合は良くないが、惨めな気持ちは薄れていた。食後のコーヒーを飲み終え、椅子から立ち上がろうとしたとき、ウィリアム牧師が彼の側にきて、食べ物とコーヒーが乗ったトレーをテーブルに置いた。
「あなたのことを見ているガーディアンエンジェル(守護天使)が二人いますよ。これは彼らからの差し入れです」
 ウィリアム牧師は穏やかな笑みを浮かべ優しい声で言った。
「え? ふたり? 誰ですか?」
「ケリー巡査とオニール巡査です。あなたが来る少し前までここにいましたよ」
「ありがとうございます。ケリーとオニールならよく知っています」
 エリックは咳と一緒に頭を下げた。
「あなたの体のことをとても心配していました。風邪をひいているとケリー巡査が言ってましたが――」
 エリックは返事をしようと思ったがまた咳が出た。ウィリアム牧師はエリックの背中を静かにさすった。
「大丈夫ですか?」
「すみません。大丈夫です。すぐに治ります。ケリー巡査からクリニックのカードをもらいました。住所も教えてくれました。無料のクリニックです」
「それは良かった。でも、もうこの時間はクリニックは閉まってますから、今夜は私が何か薬を探してきましょう。明日、クリニックに行けば、すぐに良くなりますよ。外は寒いですから、食事をしたら、ここでゆっくり休んでいたほうがいいです。もし、寒かったら、ブランケットを持ってきますので、遠慮せずに言ってください」
 
 5分後、ウィリアム牧師はケリーから受け取ったお金を持って薬局に行った。咳止めに効果がある強力な感冒薬を購入したが、ウィリアム牧師の心にはエリックの病状に対する不安があった。
――この薬は、彼の風邪には効かないかもしれない。でも、咳だけでも軽くなれば・・・・・・